「難しいけどなんとかやってみよう。
崖を降りること事体は、僕たちプーカにはそんなに難しくないんだ」
カインは近くに落ちてた棒切れで地面に図をかきました。
「問題は、宝玉のある辺りの空気が毒を持っていることなんだ。
宝玉に近づく前に死んでしまうよ」
リミイは、カインのかいた図をしばらく見て、口を開きました。
「あたし、少しの間なら毒気を吸わずに動けるわ。風の魔法で身の回りの空気を固定できるから」
魔法と聞いて、ラディーが目を輝かせました。
「リミイお姉ちゃんてすごいんだね」
「でもねー、その魔法ってどれくらいもつの？」
カインがきくと、リミイは少し困った顔になりました。
魔法の効いている時間は自分では把握してますが、どう伝えていいか迷います。
この森に時計はありません。
「心臓が５００回打つくらいかな」
リミイが言うと、カインは即座に答えました。
「ええー？ たったそれだけー？ ぜんぜんたりないよー」
ふと気づいて、リミイはカインの胸に手を当ててみました。
心臓の鼓動がおそろしく速いです。１秒に３〜４回は鳴っているでしょうか。
カインは動揺してるわけでも激しい運動をしたわけでもないので、これがプーカの普通の鼓動なのでしょう。
リミイはお返しに胸に触れようとしたカインの手をピシャリと叩き、地面に落ちていた石ころを拾いました。
そして髪を一本抜いて、石に結び付けました。
石から２５センチの所で髪を持ち、振り子にして揺らしてみました。
１秒に１回のペースで揺れています。
「これが５００回ゆれる間、魔法をかけていられるわ」
カインは振り子をじーっと見ていました。
しばらく動かなかったので、ラディーとリミイは、カインが催眠術にでもかかったかと勘ぐりました。
「やっぱり短すぎる。魔法が切れた後で、毒を吸いすぎてしまうよ」
「じゃあこういうのはどお？ 長い棒の先に鉤か粘液かをつけて、離れた場所から取るってのは」
「それはぼくも考えたんだけどね。そんなに長い棒はないよ。
作ったとしても、うまく操れないと思う」
「そう……」
リミイの表情は沈んでいた。カインはリミイを元気づけるように明るい声で言った。
「とにかく、ギザギザ山の宝珠を落とした谷にいってみようよ。何か思い付くかもしれない」
「そう…ね」
「カイン、その前に大木のおじさんの所にいってみない？」
ラディーが言いました。
この森の中心部に大木があります。何千年も生きた、知恵を持つ大木です。